飛び出すんだったら本当に、東洋一、飛び立たせたい
―山崎貴『ALWAYS 三丁目の夕日'64』監督・VFX・脚本
山崎監督が「おみやげ」「別冊付録」と呼ぶ本作の"飛び出す3D"シーン。『アバター』以降、"奥行きを表現した3D"映画が主流となり、そうした映画の中には、"飛び出す3D"シーンのない映画も多い。しかし、3D映画なのに飛び出すシーンがないというのは、物足りない感じがするというのも正直なところ。「アメリカ人は飛び出す3Dはダサいという呪縛にとらわれているんですよ。全部飛び出していたのではだめですが、目の前まで飛び出してくるというのは、やっぱりなんだかんだ言っても好きなんですよね」と笑顔で語る山崎監督。彼が取り入れた本作の"飛び出す3D"シーンの魅力を紹介し、本作の3Dの楽しみ方を提示したい。
冒頭シーンでありながら、本作の中で最も飛び出しているのが、この東京タワーの俯瞰の映像。「『ALWAYS』の3作目を3Dでやると決まったときに、最初に浮かんだのが、このシーンでした」。山崎監督は、そのイメージを再現するため、目が痛くならないレベルで、一番物が飛び出る数値を見つけるために相当な苦労を重ねたという。一平(小清水一揮)が投げた飛行機を追い、夕日町三丁目を抜け、東京タワーへと真っ直ぐに向かっていく……このシーンは、昭和39年へのタイムスリップの入り口。その感覚は、3Dでぜひ体感してほしい。
堤真一演じる鈴木則文が、会話をしながらごはんを食べていて、ごはん粒を飛ばすというシーン。このシーンで、"則文さん"が飛ばすごはん粒も、3Dによって観客の方へと飛んでくる。山崎監督は「堤さんが飛ばしたごはん粒がうまく飛んでいたので、じゃあ3Dで吹き飛ばそうとその場で思い付いたんです」と振り返るが、そんな思い付きも、映画の良いスパイスになった。こちらは一瞬なので、見逃し注意のシーンだ。
信州・松本の実家に帰省するため、中央線に乗る茶川(吉岡秀隆)。その中央線をバックに、3Dで飛び出した無数の赤とんぼが、劇場内を飛び交うシーンがある。ごはん粒を飛ばしたのは思い付きだと言った山崎監督だが、この赤とんぼのシーンについても、撮影現場で「赤とんぼ飛ばそうよ! 赤とんぼ飛ばそうよ!」という話になったと明かす。しかし、そんな山崎監督の思い付きは、ここでも功を奏し、今ではなかなか見ることのできなくなった赤とんぼがたくさん飛んでいる情景を再現。「赤とんぼがたくさん飛んでいて、うざいというのは、超すてきなうざさなんですよ!」という山崎監督。3Dで再現した赤とんぼは、しっかりと"うざい"仕上がりに。このシーンは、赤とんぼが無数に飛んでいた"あの時代"を感覚的にも思い起こさせる"すてきな"シーンとなった。
そのほかにも、則文さんの3D版激昂シーン、エンディングでも飛行機が飛び出してくるなど、"飛び出す3D"のお楽しみシーンは、そこかしこに散りばめられている。ぜひ劇場で見つけ、"おみやげ"を持ち帰ってもらいたい。
観ているところからスクリーンまでの距離が、そのまま3D映像が飛び出してくる距離になるので、3D映画の飛び出し感を楽しみたいのであれば、大きい劇場の後ろの方がベスト! 2D映画の特等席といえば、スクリーンがちょうど目の高さに来る劇場の中央辺りの真ん中だが、3D映画の特等席は後ろの真ん中。『ALWAYS 三丁目の夕日'64』もぜひこの席で楽しんでほしい。
ニンテンドー3DSなど、裸眼で観ることができる3D映像も実現しているが、映画館でメガネなしの3D上映が実現するのはいつになるのか。株式会社IMAGICAで、3Dスーパーバイザーを務める灰原光晴氏は、研究者に話を聞くと、「真面目に研究をして、20年くらいかかります」と答えが帰ってくることを明かす。しかし、「ということは、その研究をしている人も、その研究を真面目にする気はないんですよね」と灰原氏。理論上は可能だという映画館でのメガネなしの3D上映だが、その実現には、まだまだ時間が掛かるようだ。
「3Dにしたことによって、劇場に来てもらう意味みたいなものを、付け加えることができたと思うんですよね」と話す山崎監督。「『ALWAYS』は、その時代を知らない人にとっては、観光映画。その時代を知っている人たちにとっては、かつて見ていた世界にもう1度行けるタイムマシンだし、知らない人たちにとっては、自分たちはよく知らないけれど、かつて日本にあった風景と触れ合える観光映画」。3D映画は、高いし、メガネを掛けなければならないし、観たくないとネガティブな感想も多く聞くが、3Dメガネを東京オリンピックが開催された1964年(昭和39年)の夕日町三丁目への招待キップと捉えたらどうだろうか? 映画館でメガネなしの3D上映実現は20年後、でも、メガネを掛ければ、味わえるタイムスリップ感。ちょっと面倒かもしれないけれど、メガネを掛けて、そのタイムスリップ感を味わってほしい。『ALWAYS 三丁目の夕日'64』には、初めて3D映画に触れる人にも3D映画を楽しんでほしいという監督、技術者たちの思いが詰まっている。